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統合的イメージングとは

多数の神経細胞集団が織りなす電気・化学的情報伝達網の動的変化が、知覚や運動から認知、意思決定、意識に至るまでの複雑な神経機能、あるいは「こころ」、を生み出す基盤と考えられています。脳はこのような情報伝達網の物質的基盤です。そして、精神・神経疾患や発達障害の病態の背景には、脳内情報伝達網の構造的あるいは機能的不調があります。私たちは、「統合的イメージング」の手法を用いて「こころ」を生み出す脳内情報伝達網の理解と、その変性・変調による精神・神経疾患の病態解明を目指します。

磁気共鳴画像(MRI)、ポジトロン断層像(PET)、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)、脳磁図(MEG)や脳波(EEG)は、いずれも身体を傷つけずに脳内情報伝達網の構造や活動を計測する手法、すなわち「非侵襲脳情報計測法」です。各計測法は長所と短所を併せ持つため、単独の手法を用いた研究では、たまたま用いた手法の持つ計測特性(測定対象が情報表現か物質か、感度の高い特定の脳部位など)に偏重した研究結果が報告されます。このような偏重には研究者自身も気づかないことがあり、結果として脳活動と神経機能あるいは病態の関係について不十分な理解が広まってしまうことも珍しくありません。そこで私たちは、異なる特性を持つ脳構造・機能計測手法をできる限り同時に用いることで、脳内の情報伝達網の構造・機能と行動の関係を偏りなく理解する「統合的イメージング」あるいは「多次元イメージング」の開発を目指しています。「統合的イメージング」により、精神・神経疾患の新たな診断法を開発することが当センターの目標の1つです。

「統合的イメージング」の例としては、EEGと機能的MRIの同時計測系が挙げられます。私たちは、この手法を用いてヒトがEEGによる非侵襲型ブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)を操作したり、学習したりする間に脳全体がどのように活動しているのかを可視化する技術を開発しました。BCIは失われた神経機能を補うだけでなく、ニューロフィードバックにより神経の「可塑的変化」を誘導し、リハビリテーションや精神・神経疾患の治療に役立つ可能性が指摘されています。また最近、経頭蓋磁気刺激(TMS)や経頭蓋直流電気刺激(tDCS)などの非侵襲脳刺激法を用いて、精神・神経疾患の治療に役立てる試みも数多くなされるようになりました。私たちは、「統合的・多次元イメージング」とBCI・非侵襲脳刺激法をさらに統合した「統合的脳情報解読・介入法」による、精神・神経疾患の新たな治療戦略の開発を目指します。
(文責:花川 隆)

多次元イメージング概念図

多次元イメージングの概念図:イメージング手法を用いると、3次元座標上のある脳部位(xi, yi, zi)についての多彩な情報(例えばFA, fractional anisotropy、脳活動やD2受容体結合能)を同じフォーマットで経時的に表現することができる。このようにすると、tiにおいて行った治療的介入の影響を多次元的に評価することが可能になる。