認知症センター
認知症センターは2017年4月に始動しました。
認知症にかかわる病院・研究所職員の臨床研究・治験の協力を行う、ハブ(hub: 中継地)の役割を持ちたいと思っています。
認知症センターでは独立の専門外来は持っておりません。
かわりに、認知症センターに所属する医師(主に精神科医師、脳神経内科医師)によって、東京都認知症疾患医療センター(地域連携型)を運営しております。
受診ご希望の方は、もの忘れ(認知症)外来をご覧ください。
オレンジカフェ
「オレンジカフェ」は、認知症の方、そのご家族の方、認知症予防に関心のある方の誰もが参加できる認知症カフェです。
毎月1回開催しており、参加者同士の交流や相談、治験等の情報提供等を行っています。認知症センターに所属する医師や認知症看護認定看護師、心理療法士も参加しており、医療や介護に関する相談もできます。参加費は無料ですが、病院内のタリーズコーヒーの席をお借りしますので、1人1品ご購入お願いします。
開催日には「みんなでおはなしオレンジカフェ」ののぼりがでています。 皆様のご参加をお待ちしています。
オレンジカフェ開催のお知らせ
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過去のオレンジカフェの振り返りは、こちら
認知症とは
「もの忘れ」とはどんな症状をいうのでしょうか?
記憶は、(1) 情報を覚えこむこと(記銘)、(2) 情報を保存しておくこと(保持)、(3) 情報を思い出すこと(想起)の3つの過程から成り立っています。「もの忘れ」とは、いったん覚えた内容を思い出せないこと(想起,再生の障害)を意味します。
もの忘れという言葉で、老化によっておこる生理的な記銘力障害と同時に病的な「認知症」を意味することがあります。もの忘れといっても、それが朝ごはんの内容を詳しく思い出せないものなら加齢による記銘力低下でしょうし、朝ごはんを食べたこと自体を忘れるようなら病的と言えるかもしれません。
病的な「もの忘れ」、(認知症)をもたらす疾患のなかで一番多いアルツハイマー病では、いつどこで何が起こったかという日常の出来事や思い出の記憶であるエピソード記憶が初期から障害されるといわれています。一方、初期には記銘力障害は目立たず、注意力や遂行能力障害が目立つレビー小体型認知症のような病気もあります。
記憶であるエピソード記憶が初期から障害されるといわれています。
「認知症」とはどんな状態ですか?
脳の機能は、記憶、見当識、言語、認識、計算、思考、意欲、判断力など多様です。認知症ではこれらの脳の機能(認知機能)が持続的に障害され、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。日常生活場面では、仕事上のミスが増える、以前のように食事を作れなくなる、金銭管理ができなくなる、などの変化が現れます。また、以前に比べると脳の機能が低下しているものの日常生活は自立しており、認知症とも正常ともいえない状態のことを軽度認知障害と呼びます。認知症には、不安、うつ症状、幻覚、妄想、不眠、興奮などの行動・心理症状を伴うことがあります。
認知症の原因は、アルツハイマー病が最も多く、脳血管障害による認知症、レビー小体型認知症、診断が難しい高齢者タウオパチーなど多数あります。認知症に似た症状を呈するのが、せん妄という状態やうつ病等の精神疾患であり、区別する必要があります。
ですから、認知症の状態は、認知症を引き起こした原疾患によって様々です。記憶力障害はほとんどないのに、社会的生活が重度の障害されるようなこともありうるのです。
様々な認知症
アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s Disease: AD)
アルツハイマー型認知症(またはアルツハイマー病、Alzheimer’s Disease: AD)は、我が国の認知症の原因疾患として最も多く、60〜70%を占めています。進行性の認知機能(記憶、言語、計算、判断、遂行などに分類される知的な能力)の障害により、徐々に日常生活上の困難が増し、支援や介護が必要な状況となります。65歳以上の発症がほとんどですが、少数ながら65歳未満で発症する場合があり、若年性アルツハイマー病と呼ばれます。大部分の症例は、遺伝や加齢、生活環境、生活習慣など複数の因子が複雑に関与して発症すると考えられている一方で、若年発症の患者さんの中には遺伝性が強いもの(家族性アルツハイマー病)が多く含まれています。
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アルツハイマー型認知症の原因は?
アルツハイマー型認知症の患者さんの脳内には、アミロイドβ(ベータ)およびリン酸化タウという2種類の蛋白質が多量に蓄積しており、これらが神経細胞の働きを障害したり、神経細胞の死滅をもたらしたりするとされています。これら2つの蛋白質のうち、アミロイドβの方が先行して蓄積することや、これまで判明している家族性アルツハイマー病の原因遺伝子がアミロイドβの産生に関わる機能をもっていることから、アミロイドβの蓄積がアルツハイマー型認知症を引き起こすという仮説(アミロイド仮説)が有力です。しかしながら、原因遺伝子がはっきりしない大多数の症例において、なぜアミロイドβが異常蓄積するのか、アミロイドβの蓄積とリン酸化タウの蓄積にどのような繋がりがあるのか、はっきりとはわかっていません。また、アポリポ蛋白Eの遺伝子型によりアミロイドβの蓄積量に差があり、アルツハイマー型認知症の発症リスク(危険性)に大きく影響することがわかっていますが、その理由も解明されていません。 以上のように、高齢発症のアルツハイマー型認知症の原因は解明されていない一方で、青年期までに義務教育レベルの教育をきちんと受けること、聴力低下に対してケアすること、生活習慣病を抑制・コントロールすること、社会的孤立を避けること、運動不足を避けることなどで、発症のリスクを3分の2程度まで下げることができるとする研究があります。
アルツハイマー型認知症の症状は?
アルツハイマー型認知症の症状は、全ての患者さんに例外なく出現し、経過とともに進行してゆく「中核症状」と、症例によって出現したりしなかったり、内容や程度が異なる、「行動・心理症状(BPSD)」とに分けることができます。
- 記憶障害:
電話の後で来客があると、電話していたことを忘れてしまうなど、何か別の経験をはさむと、その前に経験したことを忘れてしまう、昔のことは覚えているのに、最近経験したことを忘れてしまうといった、近時記憶障害が初期の特徴です。病気の進行とともに、昔に遡って記憶を失っていく(遠隔記憶も障害されていく)ため、過去の世界に生きているような状態となり、既に亡くなった親類家族が生きているかのような話をしたり、今の住居が自分の住居だと思えなくなったり、現在の家族との関係が混乱したりします。
- 見当識障害:
時の見当識障害(曜日や日付、季節がわからなくなる)、場所の見当識障害(自分がいる場所が分からなくなる)、人の見当識障害(身近な家族や兄弟・子供などが判別できなくなる)といった順番で障害が進んでいきます。
- 判断や遂行機能の障害:
抽象的な思考をする力や、物事に対する判断力が低下するために、曖昧な指示では何をして良いか分からなかったり、詐欺に遭いやすくなったりします。また、見通しや計画をもって物事を実行する力が低下するために、仕事や家事が進まなくなったり、雑な仕上がりになったりします。
- 失算・失認・失語・失行:
計算ができなくなる、物を見ても、それが何で何に使うものか分からなくなったり、言葉が分からなくなったり、日常生活で必要な動作(服を着る、ボタンをとめる、紐を結ぶなど)ができなくなったりします。
- 睡眠障害:
初期においては不眠となり、夜間や明け方に起きて活動する、昼夜逆転してしまうといった例を認めますが、進行すると、放っておけば一日中寝ているといった過眠の状況が多くなります。
- 不安・抑うつ:
心配事があると我慢できず、家族に何度も確認したり、気分が落ち込んで意欲や食欲が低下したりします。比較的初期に出現しやすい症状です。
- 幻覚:
実際にはないものが見えたり(幻視)、聞こえたり(幻聴)します。アルツハイマー型認知症では幻聴が多いことが知られており、対して幻視は比較的まれで、「さっきまでそこに人がいた」という訴えの場合でも、実際に見えていたわけではないことが多いです。
- 妄想:
事実と異なることを事実だと主張します。記憶障害のために見つからなくなってしまった物を「盗まれた」と主張したり(もの取られ妄想)、配偶者が外出する理由を忘れてしまって「浮気をしている」と主張したり(嫉妬妄想)、食事したのを忘れて「食べさせてくれない」と家族を責めたり、家族にたびたび誤りを訂正されたり行動を修正されているうちに「虐められている」と主張したり(被害妄想)します。また、架空の話を作って記憶が欠落している部分を埋めてしまう、作話と呼ばれる症状もあります。
- 焦燥・不穏:
イライラしたり落ち着かなくなったりします。頻繁に尿意を訴えてトイレに行きたがる例もあります。
- 暴言・暴力:
感情を抑える力が弱くなるために、やりたいことを止められたり、誤りを指摘されたりして自尊心が傷つけられた時や、介護されていることが理解できずに嫌悪感や不安感、恐怖感を覚えた時などに、暴言や暴力が出てしまうことがあります。
- 拒否・拒絶:
自分や周囲の状況が十分理解できなくなるため、恐怖心や自尊心、羞恥心などから、介助を拒否することがあります。
- 徘徊:
なんらかの目的をもって家の外に出たところが、自分の居場所や方向が分からなくなり、判断力の低下により助けを求めることもせずに、思いもかけない遠方まで歩いて行ってしまうことがあります。仕事や散歩に出ようとしたり、家人が不在で不安になったり、自宅にいるのに自分の家に帰りたくなったり、外に出る理由は様々ですが、保護された時には本人も忘れており、説明できないことがほとんどです。
- 異食:
本来食べ物でないものや、調理せずには食べられない物を、口に入れたり食べたりしてしまうことがあります。
アルツハイマー型認知症の診断方法は?
アルツハイマー型認知症の本当の確定診断は、死後の剖検による脳の調査(病理診断)によってなされます。生前の臨床診断はいわば暫定的な診断であり、以下のような診察・検査から、アルツハイマー型認知症らしい所見を得ると同時に、アルツハイマー型認知症以外の病気である可能性を否定することにより、その確実性を高めています。
- 本人および介護者への問診:
ご本人・介護者それぞれの把握している症状、日常生活の状況、現在までの経過などの情報から、認知症としての重症度や、疑わしい疾患の検討を行います。
- 身体的な診察・検査:
診察においては、主に脳神経系の異常を示す所見があるかどうかを調べます(神経学的診察)。検査としては血液・尿検査、心電図検査、胸部・腹部のレントゲンなどが行われます。神経疾患だけでなく、内分泌・代謝性疾患、循環器・呼吸器・肝臓・腎臓疾患、感染症、悪性腫瘍など、さまざまな身体疾患が原因で認知機能が低下することがわかっている一方で、上記の診察や検査において、アルツハイマー型認知症に特徴的と言えるような所見は存在しません。むしろアルツハイマー型認知症以外の病気を見つけることや、将来的に薬物療法を検討する際の安全性や副作用のリスクを評価することが主目的となります。
- 神経心理学的検査(心理検査):
ミニメンタルステート検査(MMSE)や改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)などの簡便な検査により、認知症の状態にあるかどうかの大まかな判定が可能です。より詳細な認知機能の状態(どの機能がどの程度低下しているのか)を評価するためには、COGNISTATやWMS-Rといった検査が実施されます。リバーミード行動記憶検査(RBMT)は、日常生活に影響がありそうな記憶障害を、早期から見つけ出すのに有用な検査です。他の認知症疾患との鑑別が必要なときには、対象となる疾患に特徴的な所見を評価するための検査(前頭葉機能検査や言語に関する検査など)が追加されます。
- 脳の画像検査
診断の精度を高めるためには、脳の形態をみる検査(形態画像検査)と、脳の機能をみる検査(機能画像検査)を組み合わせて施行することが有用です。さらにこれらの画像に統計学的な処理を加えることによって、より早期診断の精度を高めることができます(統計画像)。
- 脳形態画像検査:
アルツハイマー型認知症に特徴的な、側頭葉内側部(海馬周辺部)の萎縮を評価するとともに、血管病変(脳梗塞や脳出血)、腫瘍など、他の認知症の原因となる病変の有無を調べることを目的として、頭部CT(コンピュータ断層撮影法)や頭部MRI(磁気共鳴画像法)が施行されます。一般にMRIのほうが情報量が豊富ですが、CTに比べると長時間の安静が必要であり、また、体内金属やペースメーカー等の埋め込み型医療機器により施行が制限されます。 - 脳機能画像検査:
脳の血流や代謝の状態を画像化することで、機能の低下している部位がわかります。認知症疾患のそれぞれで、機能低下を認める部位の分布パターンが異なることが知られており、アルツハイマー型認知症では、頭頂葉や後部帯状回、楔前部といった部位の機能低下が特徴的とされています。脳血流シンチグラフィー(脳血流SPECT)や脳FDG-PETが有用とされ、後者の方が画像の分解能が高いのですが、我が国ではアルツハイマー型認知症の検査として保険適用になっていません。
- 脳波検査:
認知症とまぎらわしい状態としての、意識障害やてんかん発作の鑑別に有用です。
- 髄液検査:
アミロイドβやリン酸化タウ蛋白の脳内異常蓄積の有無を推測するために有用な検査ですが、アミロイドに関するものは保険適用となっていません。他に、脳炎との鑑別に有用です。
- アミロイドPET・タウPET:
アミロイドβやリン酸化タウ蛋白の脳内異常蓄積を画像化して確認できるため、精度の高い診断が可能となることが期待されますが、いずれもまだ保険適用となっていません。
アルツハイマー型認知症の治療方法は?
- 薬物療法:
アルツハイマー型認知症の治療薬は、現在4剤が上市されており、それらは作用機序により2種類に分類されます。
- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬:ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン
- NMDA受容体阻害薬:メマンチン
いずれも、脳の神経細胞の働きをいくぶん正常に近づけることで、症状の進行を遅らせるといった効果が期待できますが、残念ながら病気そのものを治療する薬ではありません。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は3剤のうち1剤を選択することになりますが、作用機序の異なるメマンチンは併用することができます。
行動・心理症状が激しく、ご本人・介護者の生活を著しく損なっている場合には、対症療法的に鎮静作用や抗うつ作用、抗不安作用のある薬剤を使用することがあります。しかしながらこのような治療は、一歩間違うと、深刻な身体機能の低下からひいては余命の短縮につながる可能性もあるため、介護や環境調整の工夫だけでは解決しないときに限って、専門医とよく相談の上で慎重に進めていくことが望ましいと言えます。
- 薬剤によらない治療:
不安や混乱を軽減して、情緒的な安定と、生活の中で本来の機能がうまく発揮できるような状態を維持することを目的とした治療法として、回想法、リアリティ・オリエンテーション(RO)、音楽療法や動物介在療法などのレクリエーション療法などがあります。また、身体機能の維持や睡眠障害への対策として、作業療法や運動療法が実施されることがあります。
- 記憶や脳の機能の改善にとらわれない:
認知機能の低下について、たびたび試すようなことをされると、誰でも不快な物です。また、加齢と病気の両方により衰えていく人に、むりやり訓練や教育をしようとすることも、労多くして功少ないことといえるでしょう。健康な部分、保持されている能力に目を向け、それが発揮される環境づくりを心がけることが大切です。そして、できなくなっていることについては、「どこを補助してあげればあとは自分でできるのか」を十分検討した上で、ためらいなく援助すべきでしょう。「正しい記憶・認知」を持ってもらうことよりも、どのように対応すれば、混乱を避けて穏やかな気分でいてもらえるかを考えましょう。ときには忘れてしまうことを利用して、その場しのぎや問題の先送りでうまくいくこともあります。
- 身体機能・健康の保持を重要視する:
脳は体を健康に生かすために機能している器官です。体から適切な情報が入ってこないと、脳はうまく働かず、体が鈍ると脳も鈍ります。一方、認知症を持つ人は、その症状として意欲が低下するとともに、自身の健康を管理する能力も不十分になっていきます。そこには、介護者が積極的に介入していく必要があるのです。また、日中の身体活動と夜間の休息のメリハリが、行動・心理症状の予防や軽減につながります。
- がっかりしない、おこらない:
特に初期のうちは、本人も自分の価値が失われていく不安や、思い通りにできないいらだちに悩んでいることが多いものです。また、経験したことの細部は忘れてしまっても、その時の感情は忘れがたい、つまり自分の行動を正されたり叱責されたりしたときに、なぜ怒られたかは忘れてしまうけれど、怒られて嫌な思いをしたことは記憶に残るのです。身近な人が、自分の行動により落胆しているのを感じることも、とても辛いものです。認知機能の低下により、まとまりなく無意味な行動をしているように見えても、そこには本人なりの理由があります。ご本人の尊厳・プライドを尊重して、「バツの悪い思い」をさせない、頭ごなしに否定しない、無視をしないことが大切です。
- ひとりでかかえこまない:
認知症の人の一番近くで、一番時間を使って熱心に介護にあたっている人に限って、被害妄想の対象になりやすいのは皮肉なことです。認知症介護は長期戦覚悟、ともだおれにならないように、介護負担はなるべく多くの人に分散させましょう。介護を部分的にでも人任せにすることに、不安や罪悪感を感じる介護者も少なくないようですが、家族だけでなく、広く多種の人間関係があることで、保たれる能力があります。また、介護者も孤立を避ける必要があります。主治医や専門医、介護の専門家などに相談する機会を確保するとともに、家族会や介護者の会などに参加することも勧められます。介護者の不安やストレスの軽減は、介護されるご本人の安定にもつながります。
参考文献
血管性認知症(vascular dementia: VaD)
脳血管病変に起因して認知症を発症するのが血管性認知症です。脳血管障害(脳卒中)には脳梗塞(脳血管が詰まる)や脳出血(血管が破れる)、くも膜下出血などが含まれます。病態は多様ですが、認知症発症と脳血管障害との間に直接的な因果関係が必要とされます。
NINDS-ARIEN診断基準(Romacら、1993年)では、多発梗塞性認知症、小血管病性認知症、戦略的部位(高次脳機能に重要な脳部位)の単一病変による認知症、低灌流性血管性認知症、出血性血管性認知症などに分類されています。血管性認知症は我が国ではアルツハイマー型認知症に次いで多く、両者の合併もしばしばみられます(混合型認知症と呼ばれます)。
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血管性認知症の原因は?
脳血管障害のためその下流の血流障害により神経細胞が障害を受け、脳局所および神経ネットワークの障害として症状が出現します。脳血管障害の発症には高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が深く関わります。これらの危険因子が血管の動脈硬化を起こし、脳血管病変をもたらし、さらに結果として認知症に至ります。
一方、生活習慣病など危険因子に由来する脳血管障害ではなく、近年では遺伝性血管性認知症(CADASILやCARASIL等)やアミロイドというタンパク質が蓄積する脳アミロイド血管症(遺伝性、孤発性)なども報告されています。
血管性認知症の症状は?
障害された脳血管、その影響する脳の範囲、程度、時間的経過等によって異なります。まず、脳卒中の身体症状として麻痺や感覚障害、構音障害、嚥下障害の合併がしばしばみられます。認知機能では記憶障害よりも遂行機能障害、注意障害が目立つことが多く、失語、失行、失認などの高次脳機能障害がみられることがあります。また、無気力、抑うつ、焦燥、攻撃性などの精神症状も少なからずみられます。これらが緩徐進行性または階段状に進行・悪化していきます。
血管性認知症の診断方法は?
- 問診および身体診察:
脳血管障害の既往、合併症、危険因子の有無の確認。
- 神経学的検査:
麻痺などの局所神経症候があるか確認。
- 血液検査:
脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症など生活習慣病の有無を確認。
- 心電図:
特に脳卒中の危険因子である心房細動の有無を確認。
- 神経心理検査:
全般的な認知機能検査に加えて、遂行機能、注意機能、失語、失行、失認などを評価する高次脳機能検査が行われることがあります。 - 脳画像検査:
CTやMRIにより脳形態・解剖学的情報を得ると共に、脳梗塞や脳出血を検出します。特にMRIではT1強調画像、T2強調画像、FLAIR法などの撮像法を用いて高い解像度の下、脳血管障害の詳細な検討および経時的変化の観察が可能です。脳血流SPECTでは障害部位周辺の血流低下を認めますが、アルツハイマー型認知症などの他の認知症の合併の有無の参考になります。
血管性認知症の治療方法は?
まず、脳卒中の再発予防・進展予防として、血管障害の危険因子である高血圧を中心とした生活習慣病の治療が不可欠です。禁煙や過度の飲酒を控えることも推奨されます。脳梗塞の再発予防のため抗血栓薬が状況に応じて使用されることがありますが、脳出血の合併症がありうるため注意が必要です。また、我が国では血管性認知症としては保険適応外ですが、アルツハイマー型認知症の合併が多いことから、アルツハイマー型認知症の治療薬として保険承認されているドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどの投与されることがあります。
心理・行動症状に対しては、抑うつや意欲低下・無気力などの症状に抗うつ薬など、焦燥や攻撃性などの症状には抗精神病薬などが使用されることがあります。 ただし、血管性認知症では内科的合併症が多くかつ脳卒中の再発に注意しなければならないため、投与薬剤が多くなりがちであり、慎重な薬剤調整が望まれます。また、血管性認知症では身体症状を伴うことが多いことから、より手厚い介護が必要になりやすいと考えられます。
参考文献
- 認知症疾患診療ガイドライン2017 監修:日本神経学会 編集:「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 医学書院
- 認知症ハンドブック 編集:中島健二、天野直二、下濱俊、冨本秀和、三村將 2013年 医学書院
レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB)
レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB)は、進行性の認知機能の障害、幻視やうつなどの精神症状、パーキンソン症状、立ちくらみや便秘といった自律神経症状など、様々な症状が現れます。
我が国では、アルツハイマー型認知症、血管性認知症に次いで多い認知症です。60〜80歳台に多く見られ、性別による差はほとんどありませんが男性にやや多いとされています。家族に遺伝することは稀です。
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レビー小体型認知症の原因は?
レビー小体型認知症では、脳や自律神経の神経細胞の中に、αシヌクレインというタンパク質を主成分とするLewy(レビー)小体とLewy神経突起が出現することで、神経細胞がダメージを受けます。
これに伴い、様々な神経伝達物質(神経細胞と神経細胞の間で情報伝達を担う物質)の障害が起こり、多様な精神症状や神経症状が生じると考えられています。
アルツハイマー型認知症を合併することがあり、その場合は認知症の進行が速いと言われています。
レビー小体型認知症の症状は?
レビー小体型認知症には、下記のような多様な精神症状、神経症状が現れます。
- 認知機能の低下、動揺性の認知機能:
初期には記憶力の低下よりも、注意力の低下、顔や物の形などを識別できないなどの症状(視空間構成障害)が目立つのが特徴的です。注意力や覚醒レベルの変動により、症状にムラがあることが多く、ぼーっとしている時としっかりしている時があります。進行すると、アルツハイマー型認知症と同様に、記憶力の低下や見当識障害などが目立つようになります。
- 幻視:
幻視が繰り返し現れることが特徴的です。幻視の内容は、人物や動物、光、紐、人影のようなものからはっきりとしたもの、動いているものからじっとしているものまで様々です。夕方など薄暗い時間帯、注意や覚醒レベルが低下した時に起こる傾向があります。
- レム期睡眠行動異常症:
レビー小体型認知症を発症する数年以上前から、レム期睡眠行動異常症(眠っている間に、寝言を言う、大声で叫ぶ、手足をばたつかせる、歩き回る、暴力的になり隣で寝ている家族や壁を殴るなど)が現れることがあります。
- パーキンソン症状:
動きが遅くなる、ふるえ、小刻み歩行、筋肉が緊張し動きが歯車のように硬くなる、前かがみの姿勢、表情の変化が乏しくなるなどのパーキンソン症状が現れる場合があります。
- うつ症状:
初期からうつ症状が現れることがあります。特徴として、強い不安感、そわそわと落ち着かなくなる焦燥感、意欲の低下、頭が働かない、決断できない、集中できないと感じることが目立ちます。
- 抗精神病薬に対する過敏性:
精神症状に対して処方された少量の抗精神病薬で、パーキンソン症状や飲み込みにくさ、強い眠気、意識障害などの副作用が出現しやすくなります。
- 自律神経症状:
自律神経系の機能異常により、便秘、立ちくらみ、起立性低血圧などの自律神経症状が初期から現れることがあります。
- 姿勢の不安定さ、繰り返す転倒、失神または一過性で原因不明の意識障害:脳や自律神経系の機能異常により、失神を繰り返し、原因不明の一過性の意識障害が生じる場合があります。注意力の低下や視空間構成障害、起立性低血圧もあいまって、転倒を繰り返すことがあります。
- その他の症状:
過眠、嗅覚の低下、幻視以外の幻覚(聴こえないはずの音や声が聴こえるという幻聴など)、妄想などが現れることもあります。
レビー小体型認知症の診断方法は?
レビー小体型認知症を診断するためには、下記の問診や検査を行い、総合的に診断します。
- 症状や既往症等についての問診:
日常生活での様子を把握するため、ご本人の自覚している症状に加えて、ご家族や介護している方からの情報もお聞きします。また、現在内服しているお薬についても確認します。
- 神経症状の診察:
パーキンソン症状などの神経症状の有無や程度を評価します。
- 血液・尿検査、心電図検査、胸部・腹部のレントゲン:
認知症に似た症状を引き起こす内分泌・代謝性疾患、呼吸器・肝臓・腎臓疾患、神経感染症に罹患していないかを確認するために行います。また、診断後に備えて、治療薬を使用できる体の状態かどうかを確認します。
- 神経心理学的検査(心理検査:)
認知機能が低下しているかどうかを評価します。まず、簡便な検査として、ミニメンタルステート検査(MMSE)や改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)などを行います。簡便な検査は、明らかな認知症かどうかを確認するために有用ですが、認知症の初期や軽度認知障害の段階では見逃す可能性があります。認知症を早期から的確に診断するために、また、どのように機能が低下しているのかを評価するために、これらの検査よりも難易度が高い詳細な検査(COGNISTAT、WMS-R、リバーミード行動記憶検査など)を行う場合があります。
- 画像検査:
症状や状態、体内金属(心臓ペースメーカーなど)の有無等に応じて、以下の検査を行います。
- 頭部CT(コンピュータ断層撮影法)/頭部MRI(磁気共鳴画像法):
脳の萎縮や脳梗塞、脳出血、脳腫瘍などの有無、その部位や程度を診断します。レビー小体型認知症では、アルツハイマー型認知症で見られるような側頭葉内側部、海馬の萎縮は軽度です。そのため、他のタイプの認知症やパーキンソン症状を引き起こす疾患と区別するために行います。
- 脳血流SPECT(単一光子放射コンピュータ断層撮影法):
99mTc-ECDというごく微量の放射性物質を注射し、脳の血流が低下しているか、どの部位の血流がより低下しているかを評価します。レビー小体型認知症では、視覚をつかさどる領域を含む脳の後頭葉という部位の血流低下が見られます。
- MIBG心筋シンチグラフィ:
123I-MIBGというごく微量の放射性物質を注射し、心臓の交感神経の働きを調べる検査です。レビー小体型認知症では、異常が見られます。アルツハイマー型認知症や他のパーキンソン症状を呈する疾患(多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症など)と区別するために有用な検査です。
- ドパミントランスポーターシンチグラフィ(ダットスキャン):
123I-ioflupaneというごく微量の放射性物質を注射し、脳の線条体という部位のドパミン神経の変性や脱落を調べる検査です。レビー小体型認知症では、異常を示します。アルツハイマー型認知症と区別するために有用な検査です。
- 終夜ポリソムノグラフィ:
レビー小体型認知症では、筋緊張低下を伴わないレム睡眠が認められます。
- 脳波検査:
レビー小体型認知症では、脳の後頭葉という部位で異常脳波(徐波化)が認められます。
- 髄液検査:
アルツハイマー型認知症と区別をつけるため、または、レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症を合併しているかどうかを確認するために行います。
レビー小体型認知症の治療方法は?
レビー小体型認知症に対する治療として、薬剤による治療、適切なケアや環境調整などがあります。
- 薬剤による治療:
現時点で、レビー小体型認知症を根本的に改善させる薬剤は存在しません。ドネペジルだけが、レビー小体型認知症の認知機能と精神神経症状に対して保険適応が認められています。幻視やうつ症状、不安、不眠等の精神症状、パーキンソン症状、レム期睡眠行動異常症、起立性低血圧や便秘等の自律神経症状が強く現れている場合は、それぞれに対して薬剤による治療を行います。ただし、副作用の生じやすさから処方薬の選択や量の調整は慎重に行う必要があるため、専門医にご相談ください。
- 適切なケア・環境調整:
ご本人は不安や孤独感を強く感じていることがあるため、介護をしている方は、ご本人の言葉に共感的・受容的に耳を傾け、安心感を与えるように働きかけてください(パーソンセンタードケアを基本としたアプローチ)。生活リズムの乱れは症状を悪化させるため、日中に適度な運動や活動を行い、夜間に睡眠を確保できるようにすることが必要です。ご本人が興味を持てる余暇活動をすること、デイサービスなどで軽い運動やレクリエーションに参加することは、認知機能の維持やコミュニケーションの改善につながります。パーキンソン症状に対しては、初期から体操やリハビリテーションなどにより、筋肉や関節の硬化予防や身体機能の維持を心がけることが効果的です。薄暗い部屋では幻視が出現しやすいため部屋の電気をつけて明るくする、つまずきや転倒防止のために自宅をバリアフリーにするなど、安心して生活できるように生活環境を工夫することも有効です。介護しているご家族などの疲労や精神的ストレスが、ご本人の精神状態に大きな影響を与えることもあるため、介護福祉サービスの利用や介護している方ご自身のケア(相談や休息、リフレッシュ、余暇活動など)も重要です。
参考文献
- McKeith IG, Boeve BF, Dickson DW, et al. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB Consortium. [Neurology. 2017 Jul 4;89(1):88-100]
- 認知症疾患診療ガイドライン2017、監修 日本神経学会、編集 「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会、医学書院、2017年
- 認知症診療実践ハンドブック、編集者 山田正仁、中外医学社、2017年
- レビー小体型認知症―臨床と病態―、編集者 井関栄三、中外医学社、2014年
- 見て診て学ぶ 認知症の画像診断 改訂第2版、編集 松田博史、朝田隆、永井書店、2004年
前頭側頭型認知症(FTD:Frontotemporal Dementia)とその関連障害
脳血管病変に起因して認知症を発症するのが血管性認知症です。脳血管障害(脳卒中)には脳梗塞(脳血管が詰まる)や脳出血(血管が破れる)、くも膜下出血などが含まれます。病態は多様ですが、認知症発症と脳血管障害との間に直接的な因果関係が必要とされます。
NINDS-ARIEN診断基準(Romacら、1993年)では、多発梗塞性認知症、小血管病性認知症、戦略的部位(高次脳機能に重要な脳部位)の単一病変による認知症、低灌流性血管性認知症、出血性血管性認知症などに分類されています。血管性認知症は我が国ではアルツハイマー型認知症に次いで多く、両者の合併もしばしばみられます(混合型認知症と呼ばれます)。
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血管性認知症の原因は?
脳血管障害のためその下流の血流障害により神経細胞が障害を受け、脳局所および神経ネットワークの障害として症状が出現します。脳血管障害の発症には高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が深く関わります。これらの危険因子が血管の動脈硬化を起こし、脳血管病変をもたらし、さらに結果として認知症に至ります。
一方、生活習慣病など危険因子に由来する脳血管障害ではなく、近年では遺伝性血管性認知症(CADASILやCARASIL等)やアミロイドというタンパク質が蓄積する脳アミロイド血管症(遺伝性、孤発性)なども報告されています。
血管性認知症の症状は?
障害された脳血管、その影響する脳の範囲、程度、時間的経過等によって異なります。まず、脳卒中の身体症状として麻痺や感覚障害、構音障害、嚥下障害の合併がしばしばみられます。認知機能では記憶障害よりも遂行機能障害、注意障害が目立つことが多く、失語、失行、失認などの高次脳機能障害がみられることがあります。また、無気力、抑うつ、焦燥、攻撃性などの精神症状も少なからずみられます。これらが緩徐進行性または階段状に進行・悪化していきます。
血管性認知症の診断方法は?
- 問診および身体診察:
脳血管障害の既往、合併症、危険因子の有無の確認。
- 神経学的検査:
麻痺などの局所神経症候があるか確認。
- 血液検査:
脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症など生活習慣病の有無を確認。
- 心電図:
特に脳卒中の危険因子である心房細動の有無を確認。
- 神経心理検査:
全般的な認知機能検査に加えて、遂行機能、注意機能、失語、失行、失認などを評価する高次脳機能検査が行われることがあります。 - 脳画像検査:
CTやMRIにより脳形態・解剖学的情報を得ると共に、脳梗塞や脳出血を検出します。特にMRIではT1強調画像、T2強調画像、FLAIR法などの撮像法を用いて高い解像度の下、脳血管障害の詳細な検討および経時的変化の観察が可能です。脳血流SPECTでは障害部位周辺の血流低下を認めますが、アルツハイマー型認知症などの他の認知症の合併の有無の参考になります。
血管性認知症の治療方法は?
まず、脳卒中の再発予防・進展予防として、血管障害の危険因子である高血圧を中心とした生活習慣病の治療が不可欠です。禁煙や過度の飲酒を控えることも推奨されます。脳梗塞の再発予防のため抗血栓薬が状況に応じて使用されることがありますが、脳出血の合併症がありうるため注意が必要です。また、我が国では血管性認知症としては保険適応外ですが、アルツハイマー型認知症の合併が多いことから、アルツハイマー型認知症の治療薬として保険承認されているドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンなどの投与されることがあります。
心理・行動症状に対しては、抑うつや意欲低下・無気力などの症状に抗うつ薬など、焦燥や攻撃性などの症状には抗精神病薬などが使用されることがあります。 ただし、血管性認知症では内科的合併症が多くかつ脳卒中の再発に注意しなければならないため、投与薬剤が多くなりがちであり、慎重な薬剤調整が望まれます。また、血管性認知症では身体症状を伴うことが多いことから、より手厚い介護が必要になりやすいと考えられます。
参考文献
- 認知症疾患診療ガイドライン2017 監修:日本神経学会 編集:「認知症疾患診療ガイドライン」作成委員会 医学書院
- 認知症ハンドブック 編集:中島健二、天野直二、下濱俊、冨本秀和、三村將 2013年 医学書院
高齢者タウオパチー
(1) 嗜銀顆粒性認知症(AGD: Argyrophilic grain disease)
- 病理:
タウ蛋白のうちでも4リピートタウ(4Rタウ)が異常凝集、蓄積する。嗜銀顆粒と呼ばれる構造が病理的に観察される。神経細胞の樹状突起やその分枝に見出される。神経細胞内にpretangle(プレタングル)と呼ばれる繊維までには至らない構造をもつタウ蛋白の凝集がみとめられる。神経細胞以外の細胞でオリゴデンドロサイト(乏突起細胞)と呼ばれる細胞にはcoiled bodies(コイルドボディ)と呼ばれる、鞭や釣り針のような形の構造がみとめられる(これはAGDだけではなく、アルツハイマー病をはじめ他のタウオパチー(タウがたまることにより生じる疾患群)にも認められる)。また、バルーンニューロン(ballooned neuron)という神経細胞の細胞体が膨らんで観察される構造もある。
AGDの病変の脳内での広がりは最近までNCNP病院に在籍した齊藤祐子らの業績によって知られており、ステージ分類がなされている。嗜銀顆粒の広がりによりStage IからStage IIIまでに分離される。Stage IIIに至る症例では、生前の認知症との関連が報告されている。
AGDの高齢者に占める割合は、わが国の報告では、平均79.7歳の190例で43.2%に認められた。高齢者ではかなりの率で認められるが、認知症に占めるAGDの割合については報告によって5%程度から12.5%まで幅があるが、いずれにしろ少なくない疾患である。
- 臨床診断:
現時点では困難である。アルツハイマー病に比べて高齢で、記銘力低下で発症し、進行も緩徐である。易怒性・頑固などの性格変化があるという複数の報告がある。
- 治療:
コリンエステラーゼ阻害剤の効果は少ないと言われている。
- 検査:
まだ検査で有用なものはないが、MRIでは左右差を伴う、迂回回を中心とする側頭葉内側面前方の萎縮が目立つ。FDG-PET, 脳血流SPECTなどの機能画像では、左右差を伴う側頭葉内側面の低下がある。アミロイドPETは陰性である。
(2) PART(primary age-related tauopathy)
- 加齢に伴い海馬を中心とした領域に神経原線維変化(neurofibrillary tangle:NFT)が現れるものを総括して呼ぶ(Craryら,2014)。PARTは疾患名というより、NFTが内側側頭葉を中心として分布し、かつ老人班はほとんどない病理学的状態であり、臨床的に認知症を示すときにはSD-NFT(神経原線維変化型老年期認知症, senile dementia of the neurofibrillary tangle type)と呼ぶ。SD-NFTは1992年にUlrichらによりtangle-predominant dementia(TPD)として報告され、その後、様々報告が行われるとともに名称も様々に記述されてきた。
- 病理:
アルツハイマー病に認められる老人班を伴わずに、アルツハイマー病と同様のNFTが海馬辺縁系に観察される。
- 臨床像:
後期高齢者に発症し、初発症状は記憶障害で、他の認知機能や人格は比較的保たれる。緩徐に進行する。妄想の出現も少なからずある。
- 画像検査:
海馬の萎縮はあるが、大脳皮質の萎縮は相対的に軽度である。アミロイドPETは陰性である。
(3) 石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病(DNTC: diffuse neurofibrillary tangles with calcification)
- 側頭葉や前頭葉に萎縮があり、大脳皮質に多数の神経原線維変化(NFT)が病理的に観察される。老人班はない。報告者の名前をとって、小坂・柴山病とされることもある。 老人班はない。
- 臨床像
初老期に発症し、緩徐に進行し、記銘力障害や見当識障害が主症状である。前頭側頭型認知症と診断される例も多い。落ち着きのなさや、自発性欠如、多幸などを経て、健忘性失語や反復言語などもあらわれ、齊藤らによると、パーキンソン症状(錐体外路徴候)、錐体路徴候も出現し、嚥下障害なども出て寝たきり状態となる。
- 頻度:
東京都健康長寿医療センターや岡山大学の報告では1%にも至っていない稀な疾患である。
認知症の稀な原因
認知症には進行性核上麻痺、コルサコフ症候群、ビンスワンガー病、HIV、クロイツフェルトヤコブ病(CJD)など、まれですが他にも多くの原因があります。多発性硬化症、運動神経病気、パーキンソン病、ハンチントン病の人も認知症を発症するリスクが高くなります。
スタッフ紹介
塚本 忠
役職
医長
経歴
筑波大学 平成4年卒(医学博士)
専門分野・資格
日本神経学会専門医
日本内科学会認定医
日本認知症学会専門医
認知症サポート医
認知症
分子神経遺伝学
阿部 康二
役職
院長
経歴
東北大学医学部 昭和56年卒
東北大学大学院 昭和62年修了(医学博士)
岡山大学名誉教授
専門分野・資格
世界脳循環代謝学会元理事長・会長
アジア脳血管・認知症学会前理事長・会長
日本神経学会元会長
日本脳卒中学会元国際委員長
日本脳循環代謝学会元理事長・会長
日本認知症学会評議員
日本認知症予防学会副理事長・元会長
日本脳血管・認知症学会元理事長・会長
日本化粧医療学会前理事長・会長
日本難病医療ネットワーク学会理事・元会長
日本内科学会認定医・指導医
日本神経学会専門医・指導医
日本脳卒中学会専門医
日本認知症学会専門医
日本認知症予防学会専門医
日本化粧医療学会専門医
サウジアラビア国ファイサル国王医学賞2021年選考委員
髙尾 昌樹
役職
臨床検査部長
経歴
慶応義塾大学 平成2年卒(医学博士)
埼玉医科大学国際医療センター(脳神経内科・脳卒中内科)
客員教授
慶應義塾医科大学医学部(病理学、法医学)非常勤講師
山口大学医学部(病理学)非常勤講師
専門分野・資格
日本神経学会専門医
日本内科学会認定医
日本内科学会認定内科専門医(現:総合内科専門医)
日本脳卒中学会専門医
日本認知症学会専門医
日本神経病理学会指導医・認定医
日本医師会認定産業医
労働衛生コンサルタント
身体障害者福祉法指定医
死体解剖資格
難病指定医
日本不整脈心電学会心電図検定 1級
<専門分野>
臨床脳神経内科学
神経病理学
プリオン学
脳卒中
認知症
<外来>
毎週水曜日 午前
(脳神経内科 初診,再診)
坂田 増弘
専門分野・資格
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医
専門
精神科リハビリテーション及び地域医療
認知症
髙野 晴成
役職
脳病態統合イメージングセンター(IBIC)臨床脳画像研究部長
経歴
専門分野・資格
医学博士
精神保健指定
日本精神神経学会専門医・指導医
日本臨床精神神経薬理学会専門医・指導
日本核医学会専門医
日本核医学会PET核医学認定医
中村 治雅
役職
臨床研究支援部長
臨床研究・治験推進室長(併)
経歴
京都府立医科大学 平成11年卒
専門分野・資格
内科認定医
神経内科専門医
身体障害者福祉法指定医
医薬品開発
レギュラトリーサイエンス
大町 佳永
役職
精神科医長
経歴
東京女子医科大学 平成17年卒
専門分野・資格
精神保健指定医
精神保健判定医
日本精神神経学会専門医・指導医
日本精神神経学会認知症診療医
日本認知症学会専門医・指導医
専門
臨床精神医学
認知症
横井 優磨
役職
教育研修部 臨床研究教育研修室長
経歴
東京医科歯科大学 平成16年卒(医学博士)
専門分野・資格
精神保健指定医
精神科専門医
老年精神医学専門医専門
医薬品開発
レギュラトリーサイエンス
勝元 敦子
役職
医師
経歴
宮崎大学 平成17年卒(医学博士)
専門分野・資格
日本神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本認知症学会専門医
専門
神経免疫疾患、神経変性疾患、神経科学
雑賀 玲子
役職
医師
経歴
島根大学 平成18年卒(医学博士)
専門分野・資格
日本神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本認知症学会専門医会
専門
神経免疫性疾患、認知症
稲川 拓磨
役職
精神科医員
経歴
北海道大学、平成24年卒(医学博士)
専門分野・資格
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医・指導医
日本認知症学会専門医・指導医
認知症サポート医
専門
臨床精神医学
認知症
ニューロモデュレーション(tDCSなど)
臨床研究・臨床試験・治験
臨床研究
- 40歳以上で、物忘れに不安を感じている方。
- 受診を迷うほどだが、物忘れに関して、定期的に受診したい方。
- 18歳以上で、認知症の人を介護している方。
- インターネットに接続可能な方。
こだいら認知症週間講演会
2022年こだいら認知症週間講演会

市民公開講座
2021年度市民公開講座
市民公開講座
みんなで考える認知症
- 日時:2022年3月19日
- 方法:ZOOMにてオンライン開催予定
- 申し込みはこちらのGoogleフォームもしくは「はがき」、「FAX」にてお願いいたします。
- 詳細情報については下記PDFを御覧ください。
2020年度市民公開講座
市民公開講座
認知症治療の現状と進歩
- 日時:2021年3月6日
- 方法:YouTube「NCNPchannel」にて配信
- 詳細情報については下記PDFを御覧ください。
世界アルツハイマーデー
9月21日に、NCNPで世界アルツハイマーデー(アルツハイマー病等を啓発する日)の啓発活動(ダンス等)をタリーズコーヒー前、地域連携医療福祉相談室横、会計横の3カ所で行いました。
その様子をまとめしたのでご覧ください。
(PPT:27MB)
